世界で行われている研究報告

インプラントナビゲーションシステムの報告

CTデーターを用いて2種類のコンピューター支援ナビゲーションシステムを用いての研究です。下顎インプラント埋入に必要とされる埋入の正確性と外科処置にかかる時間を比較したものです。
研究の結果、2種類のナビゲーションシステムは臨床的にはほとんど同じように正確でありました。平均誤差は1o以内という報告でした。ただインプラント治療での1oはかなり大きな差となる事もあるのが現状です。一概にこれだけを信用してぎりぎりの手術はやはり難しそうです。ただ一つの道具としては十分活用できるもののようです。またその優れたシステムによって平均手術時間は早いと報告されました。

放射線照射された骨の血流量

放射線照射された骨は、オッセオインテグレーション(インプラントと骨の結合)を阻害すると報告されています。特に照射量が50Gyを超えるとインプラント生存率は低下します。照射骨では、細胞数が減少し、低酸素状態になり、血流が減少していることが示されています。その結果、骨のリモデリング能が減退し、インプラント生存率が低下すると考えられています。
研究の結果、放射線照射が施行された上下顎歯槽骨は、非照射骨と比較して血流量が減少しているであろうという仮説が確かめられました。またこの研究で用いられた装置(LDF)は歯槽骨の血流量の評価に再現性があると確認されました。しかしまだしっかりとした線引きには至らないので今後の研究が楽しみであります。

インプラントの表面性状に関する研究

チタンインプラント表面へのオッセオインテグレーションには、物理的性質と化学的性質の両者が影響します。表面形態や粗さなどの物理的改変は、インプラント埋入から回復までの治癒期間を短縮します。化学的改変は、インプラント表面におけるイオン相互作用やタンパク添加、細胞活性に影響を及ぼします。さらに生体内の複雑なタンパクあるいは細胞同士の相互作用を通じ、生物学的な反応に変化をもたらし、最終的には臨床レベルのエビデンス(科学的根拠)にまで影響を与えます。
研究の結果、インプラント表面の化学的改変がオッセオインテグレーション中の生物学的変化に影響するという説を支持するものです。これらの事は、インプラント治療の治癒過程を促進し得るもので、インプラント治療の短縮につながり得るものとして期待し見守りたいものです。


審美インプラント治療のポンティック部(インプラントを埋入しない中間部)における治療方法

現在、審美領域におけるインプラント治療は、補綴主導型インプラント治療のコンセプトが広まり、単独歯欠損症例においては非常に高い完成度を目指すことが可能になってきています。しかし、複数歯欠損に対し、インプラント治療によって天然歯同様の審美性を与えることはいまだに困難です。
この研究では多数歯欠損をインプラントによって審美的に治療するための戦略的に歯牙を保存した方法です。インプラントの材料や形態など日々改善が進められていますが、周囲の骨、軟組織を健康な頃と変化なく維持するのは天然歯を超えるものはないであろうという考えのもと進められています。
とにかく今の状態を壊さないように最大限に配慮した方法といえます。ただ、誰にでも適応できるものではなく、かなり条件が絞られる事、矯正治療も不可欠となるなど、時間的制約のある人にも難しいと言えます。ただ、審美的に回復するための一つの有効な手段となり得ることを示唆しています。

下顎臼歯部の骨中間挿入移植(骨が垂直的に吸収している場合に用います)

著しい垂直的骨欠損は骨量不足のためにインプラント埋入を困難に、あるいは不可能にしてしまう事があります。下顎臼歯部に下顎管という神経が存在するからです。今までにも仮骨延長術や垂直的骨移植、ショートインプラントなど様々な手段が用いられてきました。サンドイッチテクニック(骨中間挿入移植)は水平的に1か所、垂直的に2か所骨切りを加え、移植骨(腸骨)を挟み込むものです。近年、下顎臼歯部へも応用されるようになってきました。
この研究発表は経過観察(平均38カ月)も良好でインプラント周囲の骨吸収が0.9mmであったと報告されています。ただし仮骨延長術と同様、サンドイッチテクニックの限界として、垂直的骨欠損のみが修正され、水平的骨欠損の修正はわずかであるという弱点はあります。下顎臼歯部が著しく骨吸収しているインプラント治療を行う時の一つの手段として有効な方法と考えられます。


インプラントと喫煙について

喫煙がインプラント治療にどのような影響を与えるかという報告は非常にたくさんあります。1995年のNevinsとLanger、2000年のBrocard,2004年のWennstromらの報告があります。
これら複数の論文を分析すると、喫煙がインプラントに与える影響は確実にあると言えます。

インプラントと骨の結合状態についての報告です。
喫煙者の結合状態は86.1%に対して非喫煙者は92.4%でした。この差は統計学的に有意な差があります。ただ、当初予想していた状態よりは小さかったという報告もあります。
たくさんの研究者達の結果を総合的に見ていくと、すべての骨(しっかりした骨と弱い骨を含む場合)で、喫煙者と非喫煙者で比較したものは、両者にあまり大きな差はありません。しかし弱い骨に限局して、両者を比較したものは大きな差があります。
これらの事から、喫煙の影響が大きく出るのは、骨質が弱い時であると言えます。 今後は骨質の異なる様々な部位へのインプラント治療が喫煙とどの程度関わりがあるかを研究していく必要があると考えます。

インプラントの表面性状は喫煙とどの程度関係があるでしょうか。
インプラントの表面性状は骨のインプラントに対する接触に影響を及ぼし、インプラントの治療結果を改善させる可能性があります。
HAコーティングされたインプラントは、喫煙者と非喫煙者で骨結合状態が30%以上違う事が報告されています。 喫煙者にも朗報はあります。酸エッチング処理したインプラントは、両者に差はないと報告されています。ただし骨はしっかりした状態での研究結果でした。
これらのことから、喫煙は治療結果に悪い影響を及ぼすと言えます。その影響は骨が弱い時に特に顕著に出ると言えます。


垂直的または傾斜インプラントによって支持された固定性補綴物による完全無歯顎の即時補綴

垂直的または傾斜インプラントによって支持された固定性補綴物による完全無歯顎の即時補綴の臨床結果を検証したものです。インプラントの残存率、3年後の機能後のインプラント周辺の骨の状態を報告したものです。
以前は多数のインプラントを埋入するという考え方でしたが、最近では4〜6本のインプラントでも問題なく使用できるというものです(上顎は骨がしっかりしているという条件が必要です。下顎はほとんどの人できます)。特に臼歯部(奥歯)に傾斜埋入(斜めにインプラントを埋入)されたインプラントは、平行に並んだ垂直インプラントよりも力の分散・負担、より長いインプラントが利用でき、より深い骨を利用できるという点で優れているというものです。
また傾斜インプラントは周辺の骨吸収に影響を及ぼさないというものです。 傾斜インプラント埋入は上顎洞(上顎奥歯上方部の空間)への骨移植方法と比較して、より簡単で、予知性が良いと僕も考えます。しかしどんな人にでも用いられる方法ではありません。

ウサギ大腿骨の骨治癒におけるブラステッドチタンインプラント表面上に行った細胞接着因子コーティングの効果

インプラントにおける予知性および長期の成功率は、骨の質と量のような、局所の骨の状態に影響を受けやすいです。
なかでも上顎臼歯は骨質が弱いことが多いです。このような部位へのインプラント治療では表面において早期に骨形成細胞の相互作用の質を増強することが有効です。
今回の研究では細胞接着分子であるT−CAMが、チタンインプラントの骨伝導性を増強させ、効果的に固定化されたことを報告されました。今後の詳しい研究と報告に期待しています。

インプラント支持の固定性部分床義歯のセメント固定に用いた4つの仮着材の維持力に対するサーマルサイクリングとエアアブレーションの効果

インプラント上部構造の固定にはスクリュータイプとセメンティングがあります。どちらにも利点と弱点がありますが、世界的な流れはセメンティングです。そしてセメンティングをする材料は少し弱めのセメントが用いられます。中のネジが緩むなどのトラブルに対して容易に対応できるようになっています。
このセメントを用いる時には維持力が低いことが問題とされています。それを解決するようにアバットメントや上部構造に処理を行い、維持力を向上させられることが発表されました。


ハイドロキシアパタイトコーテッド(HA)インプラントの長期観察

HAインプラントの長期観察成績(8〜10年)が報告されています。HAインプラントとチタンインプラントの長期成績を比較したものです。
結果、HAインプラントの成功率は82%と報告されているので、スレッド型チタンインプラントよりも劣っていることがこの研究では示された事になります。HAインプラントが敬遠されている理由は不安定で細菌感染増大を招き、急速な骨破壊を引き起こします。よってチタンインプラントを上回る利点は何も見出せないという報告がされているからです(1991年Albrektssonらの報告)。また、HAインプラントは長期にわたる成績の報告がないのです。
あくまで個人的な意見として、完全に否定する物ではないかもしれませんが、今後画期的な変化がない限りインプラントの主流になることは考えづらいです。

機械研磨および酸エッチング・スクリュータイプインプラントにおける一次固定

インプラントの初期固定は、初期のオッセオインテグレーショーンに影響を及ぼします。不十分な初期固定は骨―インプラント界面における微小動揺を招き、骨治癒過程に影響し、結果として繊維性被包をもたらします。しかし初期固定の機能は不明であります。
そこで初期固定の不良な状態において機械研磨インプラントと酸エッチングインプラントにおけるオッセオインテグレーショーンを比較したものです。
酸エッチングインプラントは術後一次固定のいかんに関わらず、機械研磨インプラントよりも高い骨インプラント接触率とリムーバルトルク値を示しました。またこの研究では初期固定は骨―インプラント相互作用に影響していませんでした。このことからオッセオインテグレーションには初期固定より表面処理が重要であることが示唆されました。

歴史的には機械研磨インプラントは長いものを持ちますが、現在の世界的な流れとしては酸エッチングインプラントが主流であります。40年後のことを言われれば機会研磨にしか実績はありませんが酸エッチングインプラントも10年以上の報告はあります。初期固定は問題ないという報告ではありますが、これについては多数異議を唱える先生方がいると思います。

デンタルインプラントへの即時・早期・通常の負荷の影響:

インプラントの予知性を得るためには、インプラントの初期固定と微小動揺のないことが重要な2つの要素となります。微小動揺があると軟組織による被包化が生じます。このリスクを最小限にするために、インプラントの免荷期間が推奨されています。しかし1990年以降、限られた条件で臨床的に用いられるようになり、今では一般的になってきています。臨床的な状態やインプラント表面性状が免荷期間の違いによるインプラントの成功率に影響するかどうかを研究したものです。

インプラントの埋入後に即時あるいは早期に負荷を与えられるかは、私達にとっても重要な問題です。なぜなら、治療期間を著しく短縮するという患者さんの利益につながるからです。この研究では負荷の時期による差はなかったと報告されています。ただこのインプラント例は厳選されていて理想的な候補を行っています。誰にでも当てはまるものではないので、やはり一人一人きちんとした検査を踏まえて的確な判断が必要とされるものだと思いました。


デンタルインプラント即時埋入の予後について

現在、抜歯後のデンタルインプラント即時埋入は通常行われる治療法となっており、通常のインプラント埋入に比べて、骨吸収は少なく、全治療期間も短く、またその成績も通常のインプラント埋入と同様で、その長期成功率も同様です。 このような報告が多い中で即時埋入が上手くいかない例も報告されています。
歯周炎や根尖膿瘍、特に急性期の症例で成功率が低く報告されています。
VillaやRangertらの報告では感染部位においても生存率は100%とされています。
しかし失敗症例も報告があるので、慎重な対応が必要であると思います。
この失敗症例にもきちんとしたリカバー処置が施されています。

インプラント外形へのバイオロジカル・スペースの適応

オッセオインテグレーションの獲得はインプラント長期保持に重要であるが、その上を覆う軟組織の外形保存は審美的に重要である。インプラント周囲の軟組織の治癒は創傷治癒に類似しており、天然歯への軟組織とは大きく異なります。インプラント周囲にも生物学的幅径が出現するため周囲組織が変化をするのです。
そこで今回の研究で直径やヘッドの設計が異なるインプラントにおいて、周囲の骨治癒を比較されたものです。 今回の研究の結果、ワイドや拡張プラットホーム形態のインプラントはスタンダードインプラントに比べて周辺の骨吸収が大きい事が報告されています。
インプラントの形態を含めて種類の選択は非常に慎重に行うべきことであると再認識させられました。

GBRとBone Scraperで採取した自家皮質骨破片による歯槽頂増大

失われた歯槽骨に対する移植材料としてのゴールドスタンダードは自家骨であることは明白です。下顎正中部、下顎枝、上顎結節などの部位から採取された自家骨による臨床報告は数多くされています。しかし、どこの部位の自家骨が優れているかの比較研究がないので今回、研究比較されました。
移植材として皮質骨移植と海面骨移植を比較した報告では、皮質骨移植を行った症例では細胞成分に乏しく、高い吸収率を示し、より長い治癒期間が必要と報告されています。